頭が「うるさい」夜。
眠れない夜の見張り番
そーまくん:
あー、先生、もうダメです。僕、昨日も一睡もできなくて。
大沼先生:
おや、そーまくん。目の下にしっかり「昨日寝てません」って書いてあるね。どうしたんだい?
そーまくん:
「頭がうるさい」んですよ!
ベッドに入って「さあ寝るぞ」って思うんですけど、そこからが本番で。
「明日のプレゼン、あのスライドで大丈夫かな…」
「そういえば今日、部長がため息ついたの、僕のせいかな…」
「あ、5年前に言ったあの一言、最悪だったな…」
とか、もう無限ループです。
大沼先生:
ははあ。頭の中が満員御礼だ。
そーまくん:
そうなんです! 「もう考えるな!」って自分に言い聞かせるんですけど、そう思うと余計に思考がぐるぐるして。
僕、やっぱり「意志」が弱いんでしょうか。この「考えすぎ」な性格、どうにかしたいです。
大沼先生:
ふむ。
そーまくんは、その「うるさい頭」を、なんとか「頭」で静かにさせようとしてるわけだ。
そーまくん:
え? だって、考えてるのは「頭」じゃないですか。
大沼先生:
紙に黒い線が引いてあるとする。
それを消したい時、そーまくんは今、その上からもっと黒いペンで「消えろ!」って、ぐりぐり塗りつぶそうとしてるように見えるよ。
そーまくん:
う…。たしかに、余計に真っ黒になりそうです。
じゃあ、どうしろって言うんですか!
「静かすぎる」身体
大沼先生: そもそも、その「騒音」の原因が、君の「頭」にあるとは限らないとしたら?
そーまくん:
え?
大沼先生:
君の「頭(思考)」が騒がしすぎるのは、
もしかしたら、君の「身体(そま)」が、
あまりにも「静かすぎる」せいかもしれないよ。
そーまくん:
…はあ?
すみません、先生。意味がわかりません。
「身体が静か」って、むしろリラックスできてて良いことじゃないですか。
僕が悩んでるのは「頭の騒音」なんですけど。
大沼先生: まあ、そう思うのが普通かもねだ。 でも、僕たちの常識は、だいたいひっくり返るためにある。
ちょっと想像してみて。
君は、ものすごく優秀な「見張り番(=思考)」だとしよう。
君の仕事は、「土台(=身体)」が安全かどうかを24時間監視することだ。
君は、土台に向かってひっきりなしに問いかける。
「おい、今どんな具合だ? 地面は揺れてないか? 安全か?」
そーまくん:
はい、まさに僕の頭の中です。
大沼先生:
でもある時から、君の「土台(身体)」は、君の問いかけに一切答えなくなった。
ボリューム・ノブをゼロにされたみたいに、「静か」になっちゃったんだ。
そーまくん:
ええっ! 最悪じゃないですか!
大沼先生:
そう。これが見張り番(思考)にとって最悪の事態だ。
自分が立っている土台の状況が、わからない。
安全かどうかの確証が、得られない。
さあ、君(見張り番)はどうする?
そーまくん:
それはもう…パニックです!
「おい!どうした!」「何か起きたのか!?」「安全なのか!?」って、
それこそ土台が壊れるくらい、大声で叫び続けます!
大沼先生:
……それが、君の「頭の騒音」の正体だよ。
そーまくん:
あ……。
大沼先生:
思考の暴走とは、身体との接続を切られた「頭」が、
安全を確認するために起こしている、必死の「防御反応」なんだ。
私たちが「静か」にさせられた日
そーまくん:
でも、なんでそんなに「静か」になっちゃったんですか?
僕の身体(土台)は、いつから返事をしなくなったんだろう。
大沼先生:
うーん。
それはね、僕たちが「無視(否認)する」練習を、
それはもう、子供の頃から徹底的にさせられてきたからさ。
そーまくん:
練習?
大沼先生:
そーまくんは、子供の頃、転んで膝をすりむいた時、どうした?
そーまくん:
そりゃあ、血が出たら「痛い!」って泣きますよ。
大沼先生:
その時、周りの大人はなんて言った?
そーまくん:
あ…。「泣かないの!」「男の子でしょ」「我慢しなさい」…とか。
大沼先生:
そう。
君の「身体(土台)」が「痛い!危険だ!(=内部事実)」と、
ありったけのシグナル(原感覚)を送ってきた。
君はそれに忠実に応答した。
でも、「外部」から「泣いてはいけない(=解釈)」という「常識」がやってきた。
君は、その瞬間に学んだんだ。
「痛い」という、この身体の「事実」よりも、
「泣いてはいけない」という、外の「解釈」の方が、
この世界では優先順位が高いらしい、とね。
そーまくん:
「疲れた」って言ったら「みんな頑張ってる」って言われたり、
「お腹すいた」って言ったら「さっき食べたでしょ」って言われたり…。
大沼先生:
そう。僕たちは「自分の身体の感覚(内部事実)より、周りの言うこと(外部解釈)の方が正しい」というプログラムを、いつのまにかインストールしてしまった。
そして、自分の身体(土台)のボリュームを、自分でどんどん絞っていったんだ。
やがて、身体はすっかり「静か」になる。
騒音を消すスイッチ
そーまくん:
……じゃあ、僕の「うるさい頭」を治すには、どうすればいいんですか?
大沼先生:
だから、治すのは「頭」じゃないんだよ。
見張り番(思考)のパニックを鎮める方法は一つしかない。
「土台は、今こうなっている。安全だ」という「事実」を、ちゃんと伝えてやることだ。
そーまくん:
事実、ですか。
大沼先生: そう。騒音を消すスイッチは、頭にはない。 スイッチは、君の「からだ」にあって、「感覚」にある。
そーまくん: 感覚!?
大沼先生: 次回は、その「静かすぎる身体」のボリュームを戻す、 つまり「開かれた」状態になるための話をしよう。 あっ、そういえばストレンジャーシングスの続編っていつからだったっけ?
そーまくん: え、ストシン!? あ、先生! 行っちゃうんですか! (頭が「?」でいっぱいになり、昨夜の「うるささ」が少しだけ静かになった、そーまくんであった)
(つづく)

